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射出成型・射出成形

射出成形品の設計ガイドライン完全版|設計エンジニアが押さえるべき8つのルール

射出成形品の品質は、金型を起こす前の「設計段階」でほぼ決まります。

「試作品でひけが出た」「反りが止まらない」「金型修正に数十万かかった」——こうしたトラブルの大半は、設計段階でのルール違反が原因です。成形条件や金型修正でカバーできる問題には限界があり、根本は設計に立ち返るしかありません。本記事では、射出成形メーカーの視点から、設計エンジニアが知っておくべき8つの設計ルールを、具体的な数値基準とともに解説します。「なんとなく守っている」から「根拠を持って設計できる」レベルを目指した内容です。


<目次>

1.ルール1: 肉厚を均一にする
2.ルール2: 抜き勾配を正しく設定する
3.ルール3: リブ・ボスの設計基準
4.ルール4: コーナーのR処理
5.ルール5: アンダーカットを最小化する
6.ルール6: ゲート位置を設計に織り込む
7.ルール7: 穴・スナップフィットの設計
8.ルール8: 公差・寸法精度の現実的な設定
9.設計チェックリスト


ルール1: 肉厚を均一にする — 不良の7割はここから生まれる

射出成形品の設計で、もっとも影響が大きいルールを一つ挙げるとすれば「肉厚の均一化」です。バリ・ひけ・反り・ウェルドライン——現場でよく見る成形不良の多くは、肉厚の不均一が根本原因になっています。金型を起こしてから問題が発覚しても、その時点では設計変更のコストと時間が大幅にかかります。設計段階でこのルールを守れば、その大半は防げます。

なぜ肉厚が不均一だと不良が起きるのか

射出成形は、溶けた樹脂を金型に流し込み、冷却・固化させて製品を作るプロセスです。厚い部分と薄い部分が混在していると、冷却速度に差が生まれます。冷却が速い薄い部分は早く固化し、冷却が遅い厚い部分は後から収縮します。このタイムラグが以下の不良を引き起こします。

ひけ(シンクマーク) 厚肉部の内部が冷え切る前に表面が固化すると、内部の収縮に引っ張られて表面が凹みます。外観部品では致命的です。厚さの差が1.5倍を超えると、ひけのリスクが急激に高まります

反り(ソリ) 板状の部品で表裏の冷却速度が異なると、収縮量の差から反りが発生します。成形条件を調整するだけでは根本解決できないケースも多く、「形状由来の反り」は設計変更なしには止まりません。

残留応力による割れ・寸法不良 冷却速度の差は製品内部に残留応力を生じさせます。使用時に外力が加わると残留応力が集中している箇所から割れが起きます。経時変形の原因にもなります。

素材別・推奨肉厚の一覧

樹脂素材推奨肉厚範囲代表的な用途
ABS1.5〜4.5mm家電筐体、自動車内装
PC(ポリカーボネート)2.5〜4.0mm照明カバー、安全用品
PP(ポリプロピレン)0.8〜3.8mm容器、クリップ部品
POM(ポリアセタール)1.5〜3.0mm歯車、スライド部品
PA(ナイロン)2.0〜3.0mmコネクタ、構造部品
PS(ポリスチレン)1.0〜4.0mm包装、ディスプレイ
PE(ポリエチレン)0.8〜3.0mm容器、パイプ継手
PBT1.5〜3.0mm電装部品、コネクタ

設計目標は「均一な肉厚で、かつ推奨範囲内に収める」ことです。推奨範囲内でも、最薄部と最厚部の差が大きければひけや反りは発生します。

肉厚を均一にするための設計テクニック

コアアウト(肉抜き) 厚肉になりがちな部分に穴や溝を開けて肉を抜き、均一な肉厚に近づける手法です。重量削減・材料コスト低減にも効果があります。抜いた後の肉厚が基本肉厚と同程度になるよう調整し、底面にRを付けて応力集中を防ぎます。

テーパー移行 どうしても肉厚が変化する箇所は、急激な段差をつけず3倍以上の長さをかけてなだらかに移行させます。2mmから4mmへの移行なら、6mm以上の距離で変化させます。

リブで剛性を補う 「薄いと強度が足りない」場面では、全体を厚くするのではなくリブを追加して剛性を確保します。薄い肉厚+リブは、厚肉の単純板より軽量でひけも出にくく、冷却時間も短くなります。

よくある肉厚ミスと修正例

NG: ボス根元の肉厚集中 ボスが直接壁面から立ち上がっており、根元部の断面積が基本肉厚の2倍以上になっている。 → ボス根元に逃げ溝を設け、根元肉厚を基本肉厚の0.6倍以下に抑える。またはリブでボスを支持する設計に変更する。

NG: リブと壁面の交差部の肉集中 格子状リブが交差する角にそのまま肉が溜まっている。
→ 交差部にタブカット(小さなコーナー落とし)を入れて肉の集中を緩和する。

<ルール1チェックポイント>

・最薄部と最厚部の肉厚比が 1.5倍以内
・基本肉厚が素材の 推奨範囲内
・ボス根元・リブ交差部に コアアウトや逃げ溝 があるか
・肉厚が変化する箇所に なだらかなテーパー移行 があるか

ルール2: 抜き勾配を正しく設定する — 離型不良・引きずり跡を防ぐ

金型から製品を取り出す際、垂直な壁面があると樹脂と金型の摩擦が大きくなり、製品表面に引きずり跡(ドラッグマーク)が残ったり、製品が変形したりします。これを防ぐために壁面に傾斜をつけたものが「抜き勾配」です。「とりあえず1°付けておけばいい」という理解では不十分です。形状・素材・表面処理によって必要な角度は変わります。

抜き勾配が不足すると何が起きるか

引きずり跡(ドラッグマーク): 取り出し時に金型と製品が擦れ、白い引きずり傷が残る
白化・クラック: 離型時の応力集中で表面が白化、またはクラックが入る
金型の摩耗促進: 勾配のない壁面は金型を傷め、金型寿命を大幅に縮める
エジェクタピン跡の強調: 無理な力でエジェクトするためピン跡が深くなる

ケース別・抜き勾配の数値基準

面の種類・条件最小推奨角度備考
一般面(光沢なし)1〜2°基本値
光沢仕上げ面3°以上研磨方向に注意
シボ加工面シボ深さ0.025mmごとに+1°例: シボ深さ0.1mmなら+4°
リブ・ボス側面0.5〜1°高さが増すほど角度を増やす
高さ25mmを超える場合25mmごとに+1°基本角度に加算
テクスチャ面(粗め)5°以上素材の柔軟性によって調整

コアとキャビの違い 固定側(キャビ)と可動側(コア)では、製品が冷却時にコア側に収縮してくっつく傾向があるため、コア側の勾配はキャビ側より大きめに設定するのが原則です。

抜き勾配と寸法精度のトレードオフ

勾配をつけると壁面の上下で寸法が変化します。寸法精度が要求される面に勾配をつける場合は、どの断面で寸法を保証するか(上端・中央・下端)を図面に明記することが重要です。

寸法がクリティカルな面は最小限の勾配にとどめ、反対側の面で多めの勾配を確保するなど、設計の優先順位を決めて成形メーカーと事前に協議します。

シボ加工を予定している場合は特に注意

シボ(梨地)加工は金型面をエッチングで粗くするため、製品表面との摩擦が大きくなります。シボの深さが増すほど抜き勾配を大きくしなければ、取り出し時にシボが削れて外観不良になります。

シボ深さと必要な追加角度の目安:

・シボ深さ 0.025mm → +1°
・シボ深さ 0.050mm → +2°
・シボ深さ 0.100mm → +4°
・シボ深さ 0.125mm → +5°

シボの種類・深さを意匠部門と決める前に、成形メーカーに必要勾配を確認することを強くおすすめします。

ルール2チェックポイント

・すべての壁面に 最低1°以上 の抜き勾配があるか
・シボ加工面には シボ深さに応じた追加勾配 があるか
・高さの高いフィーチャに 高さに応じた追加勾配 があるか
・コア側の勾配がキャビ側より 大きく 設定されているか
・寸法保証する断面が 図面に明記 されているか

ルール3: リブ・ボスの設計基準 — 強度を保ちながらひけを防ぐ

リブとボスは、射出成形品に欠かせない構造要素です。しかし設計を誤ると、ひけの原因になったり、強度が却って低下したりします。

「なんとなくリブを入れた」「ボスはこれくらいの太さにした」という設計では、成形後のトラブルにつながります。ここでは、実務で使える具体的な比率基準を示します。

リブ設計の基本比率

リブの各寸法は、基本肉厚(t)を基準にした比率で決めます。

パラメータ推奨値理由
リブ厚0.5t〜0.6t(最大0.6t)0.6tを超えるとひけが出やすくなる
リブ高さ3t以下それ以上は座屈リスクと充填不良が増す
リブ間隔リブ高さの2倍以上流れが均等になり充填ムラを防ぐ
根元R0.25t〜0.4t応力集中とひけの軽減
先端肉厚0.5mm以上薄すぎると充填不良になる

なぜリブが太すぎるとひけが出るのか リブの根元は壁面と交わるため、必然的に肉が集中します。リブ厚が基本肉厚の0.6倍を超えると、根元の肉集中が「ひけ」として表面に現れます。0.6倍ルールはこのメカニズムから導かれた数値です。

ボス(ねじボス)の設計基準

ボスはタッピングねじや金属インサートを受けるための円筒突起です。強度確保とひけ防止を両立するため、以下の比率が基本となります。

パラメータ推奨値
ボス外径ねじ外径 × 2.0〜2.5倍
ボス内径(タッピングねじ)ねじ外径 × 0.8〜0.9倍
高さボス外径の3倍以下
根元肉厚基本肉厚の0.6倍以下
根元R0.25t以上

自立ボスとリブ支持ボスの使い分け

■ 高さが低い(外径の2倍以下)ボスは自立できます
■ 高さがある場合は根元からリブで補強します。リブは2〜4本を均等配置するのが基本です
■ リブで支持する場合もリブ厚は0.6tルールを適用します

複数リブを並べるときの注意点

格子状にリブを配置する場合、交差点に肉が大量に集中します。

対策: タブカット(コーナー逃げ) リブ交差部の四隅に小さな切り欠きを入れることで、交差部の肉集中を防ぎます。切り欠きのサイズは約45°で肉厚の0.5倍程度が目安です。

対策: 交互配置 格子の全交差点にリブを通すのではなく、千鳥配置にすることで交差点の数を減らし、肉集中リスクを分散させます。

ルール3チェックポイント

■ リブ厚が基本肉厚の 0.6倍以下
■ リブ高さが基本肉厚の 3倍以下
■ リブ根元にRが 0.25t以上 あるか
■ ボスの根元肉厚が 基本肉厚の0.6倍以下
■ 格子リブの交差部に タブカット があるか
■ 高いボスにリブ補強が 均等配置 で入っているか


ルール4: コーナーのR処理 — 応力集中と充填不良を同時に防ぐ

鋭角のコーナーは、射出成形品において2つの深刻な問題を引き起こします。一つは強度の低下(応力集中による割れ)、もう一つは成形不良(充填不良・金型の摩耗)です。

「デザイン上シャープなエッジにしたい」という要求が出ることがありますが、それが製品の信頼性と金型寿命にどう影響するかを理解した上で判断することが重要です。

鋭角コーナーが引き起こす問題

応力集中による割れ コーナーに応力集中係数(Kt)が発生します。鋭角(R=0)の場合、理論上の応力集中は無限大に近く、使用中の荷重・振動・衝撃で割れの起点になります。内Rが小さいほどKtは大きくなり、R=0.5mmとR=1.5mmでは応力集中の度合いが大きく変わります。

充填不良と残留応力 溶融樹脂は鋭角コーナーで流れが乱れます。流動方向が急に変わる箇所では残留応力が集まりやすく、また金型の鋭角部は樹脂充填時の圧力集中で欠けやすくなります。

金型の寿命低下 金型鋼材の鋭角部は熱処理ひずみの集中箇所になります。繰り返し使用による疲労で欠けやすく、金型修理コストの増大につながります。

内R・外Rの推奨値

コーナーの種類推奨値計算例(t=2mm)
内R(フィレット)0.5t〜1.0t1.0〜2.0mm
外R内R+t3.0〜4.0mm

外Rを「内R+t」にする理由 外Rを内Rと肉厚の和に設定することで、コーナー部の肉厚が均一に保たれます。外R<内R+tの場合、コーナー部の肉厚が他の部分より薄くなり、強度低下と充填不良が発生します。

最低限のR値 設計上どうしてもRを小さくせざるを得ない場合でも、最小0.3mmを下回らないようにしてください。0.3mm未満は成形困難な領域です。

意匠面でRをつけたくない場合

外観デザイン上「シャープなエッジを見せたい」という要求がある場合の対処法です。

方法1: 見えない側だけRを付ける 外観面は鋭角のまま、内側(見えない面)だけに十分なRを確保します。外観を損なわずに応力集中を緩和できます。

方法2: パーティングラインにエッジを逃がす 製品のシャープなエッジをパーティングラインに合わせて設計します。パーティングライン上のエッジは金型の合わせ面で形成されるため、比較的シャープなエッジが出せます。

方法3: 後加工で処理する 成形後のバレル研磨やレーザートリミングでエッジを整える方法もあります。ただしコストと工程が増えるため、設計段階での検討が優先です。

ルール4チェックポイント

■ 内R(フィレット)が 0.5t以上(推奨1.0t)か
■ 外Rが 内R+t に設定されているか
■ どのコーナーも 最小0.3mm を下回っていないか
■ 意匠上シャープなエッジが必要な箇所で 代替策 を検討したか

ルール5: アンダーカットを最小化する — 金型コストを左右する設計判断

アンダーカットとは、金型を型開き方向(上下)にスライドさせるだけでは抜き取れない形状のことです。横穴・逆テーパー・内側の溝・フックなどがこれに該当します。

アンダーカットがある部分には「スライドコア」「ルーズコア」「傾斜ピン」などの追加機構が必要になり、金型コストが上がり、サイクルタイムも延びます。設計段階でアンダーカットを回避または最小化することで、金型費を大幅に抑えられます。

アンダーカットが金型コストに与える影響の目安

アンダーカットの種類金型への影響
外側の横穴(小)スライドコア追加。金型費+20〜40%程度
外側の複数横穴複数スライド必要。大幅なコスト増
内側の溝・ネジルーズコアまたは傾斜ピン。複雑度大
深いアンダーカット入れ子構造。量産性も下がる

設計変更で回避できるアンダーカットを残したままにすると、金型費だけでなく「修理コスト・サイクルタイム・金型寿命」にも影響します。

アンダーカット回避の4つのデザインテクニック

テクニック1: パーティングライン移動 アンダーカットと交差するようにパーティングラインを移動させます。外面のアンダーカットに対して有効です。フックや突起の位置をパーティングライン上に持ってくることで、スライドなしで成形できます。

テクニック2: スリット・スロット追加で通し抜き 横穴が必要な場合、対面にも穴を開けて「貫通穴」にすることで、コアピンを型開き方向に通せるようになります。機能上問題がない場合は積極的に検討します。

テクニック3: ストリッピング(強制離型) PP・PE・軟質PVCなど柔軟な素材の場合、若干のアンダーカットがあっても変形させながら抜き取る「ストリッピング」が使えます。アンダーカットの深さが直径の5%以内が目安です。ただし硬い素材(ABS・PC・POM)には適用できません。

テクニック4: 形状変更で機能を代替 フック形状 → スナップフィット(型開き方向に倒れる形状)への変更、ねじ穴 → タッピングボスへの変更、など。機能を損なわずにアンダーカットを排除できるケースが多くあります。

内部アンダーカット vs 外部アンダーカット

外部アンダーカット(製品外面の横穴・フック)はスライドコアで対応しやすく、コストへの影響は比較的小さいです。一方、内部アンダーカット(製品内面の溝・ネジ山・引っかかり)はルーズコアや複雑な入れ子構造が必要になり、金型構造が大幅に複雑になります。内部アンダーカットは特に早期の設計変更検討が重要です。

ルール5チェックポイント

■ 型開き方向に 全ての形状が抜けるか 確認したか
■ 横穴は 貫通穴化 で回避できないか
■ フック・突起はパーティングラインに 移動できないか
■ 柔軟素材の場合、ストリッピング で処理できるか
■ 残ったアンダーカットについて成形メーカーと コスト確認 をしたか

ルール6: ゲート位置を設計に織り込む — ウェルドライン・外観への影響

多くの設計者は「ゲート位置は成形メーカーが決めるもの」と考えています。しかし、ゲート位置は製品の外観品質・強度・寸法精度に直結する重要な設計要素です。設計段階からゲートの考え方を織り込んでおくことで、後工程での品質問題を大幅に減らすことができます。

ゲート位置が決めるウェルドラインの場所

ウェルドライン(溶接線)とは、異なるゲートから流れてきた樹脂、または穴などで分流した樹脂が再合流する箇所に生じる線状の痕跡です。外観を損なうだけでなく、強度低下の原因にもなります。

ウェルドラインが出る場所の法則:

■ 単一ゲートの場合: 流れの先端(ゲートの反対側)に出やすい
■ 穴がある場合: 穴の下流側でウェルドラインが形成される
■ 複数ゲートの場合: ゲートとゲートの中間地点に出る

設計での対策: 外観上目立つ面や、繰り返し荷重がかかる箇所にウェルドラインが来ないよう、ゲート位置を成形メーカーと協議します。ゲートの位置を変えるだけでウェルドラインが目立たない場所に移動できることが多くあります。

主なゲート種類と特徴

ゲート種類特徴向いている形状
サイドゲート汎用性が高い。ゲート跡が残る箱型・板状製品全般
ピンゲート小型・自動切断可能小物部品、多数個取り
フィルムゲート反り防止に有効薄板・板状製品
ディスクゲート円形製品の均一充填円板・円筒形状
バナナゲート(トンネルゲート)ゲート跡が製品外観に出ない外観重視の小型部品
ホットランナーランナーレス・高速サイクル大量生産品

ゲート跡(ゲートマーク)が外観に影響しない設計配慮

サイドゲートやピンゲートでは、ゲート切断後にゲートマークが残ります。以下を意識して設計します。

■ 意匠面にゲートを設けない: 外観面にゲートが来ないよう、ゲート配置候補面を設計段階で指定する
■ 目立たない位置に凸部を設ける: ゲート跡が生じる面に小さな凸部(ゲート座)を設けて、ゲートマークを目立ちにくくする
■ ゲートランド部の確保: ゲート直下の肉厚を確保し、ゲート切断時の白化・クラックを防ぐ

厚肉側からゲートを入れる原則

樹脂は厚いところから薄いところへ流れやすい性質があります。ゲートを薄肉側に設けると、厚肉部への充填が遅れて不均一な充填になります。

基本原則: ゲートは厚肉部(最も肉が厚い箇所)に近い位置から入れる

これにより充填が均一になり、ひけや残留応力のリスクが下がります。

ルール6チェックポイント

  • 外観面・荷重集中部に ウェルドラインが来ていないか 検討したか
  • ゲート位置の候補を 成形メーカーと設計段階で協議 したか
  • ゲートマークが 意匠面に出ない 設計になっているか
  • ゲートは 厚肉部付近 に設定されているか

ルール7: 穴・スナップフィットの設計

穴の設計ルール

穴は射出成形品に不可欠な要素ですが、配置と寸法を誤ると成形不良・強度低下・金型破損の原因になります。

穴の配置基準

パラメータ推奨値
穴端からエッジまでの距離穴径以上
穴と穴の中心間距離穴径の2倍以上
コアピンの高さ(有底穴)穴径の3倍以下
コアピンの高さ(貫通穴)穴径の5〜8倍以下

有底穴 vs 貫通穴 有底穴はコアピンが片持ち支持になるため、高さに厳しい制限があります(穴径の3倍以下)。機能上問題がなければ貫通穴にすることで、コアピンを両側から支持できるため高い穴も成形可能になります。

穴の近くにウェルドラインが出る 穴があると樹脂がその周りを流れて合流し、穴の下流側にウェルドラインが形成されます。この箇所は強度が低くなるため、応力のかかる方向と穴の位置関係を検討します。

スナップフィットの設計

スナップフィットは、組み立てコストを下げるために欠かせない機能ですが、設計を誤ると折れやすくなります。

許容たわみ率(素材別)

素材許容たわみ率
PP4〜5%
PE5%以上可
POM2〜4%
ABS2%以下
PC1〜2%
PA(ナイロン)3〜4%

片持ち梁型スナップフィットの基本設計式

たわみ量(δ)= (1.5 × L² × h × ε) / (2 × t)

  • L: アーム長さ
  • h: アーム先端の係合深さ
  • t: 根元の厚さ
  • ε: 許容ひずみ(素材の許容たわみ率)

実際の設計では成形メーカーに確認しながら調整しますが、この式で概略確認することで大幅なアウトを防げます。

繰り返し使用に耐えるスナップフィットにするポイント:

  • 根元に十分なRをつける(最小0.5mm)
  • テーパーを付けてアーム全体でたわむようにする(根元から先端に向けて薄くなるテーパー)
  • 離型斜面(解除角度)を導入角度より大きくする(外れやすくする)

穴付近の肉厚管理

穴の周囲は樹脂の流れが集中するため、穴周辺の肉厚には注意が必要です。穴を設けた場合、穴の周囲に「リング状の肉集中」が生じやすくなります。穴端から基本肉厚の1倍以上の距離を確保することで、このリスクを減らせます。

ルール7チェックポイント

  • 穴端からエッジまでの距離が 穴径以上
  • 有底穴のコアピン高さが 穴径の3倍以下
  • スナップフィットのたわみ量が 素材の許容範囲内
  • スナップフィット根元に R処理 があるか
  • 穴周辺のウェルドライン位置を 荷重方向と照合 したか

ルール8: 公差・寸法精度の現実的な設定

「とりあえず全部±0.05にしておこう」——この考えが、金型費と成形コストを不必要に押し上げています。射出成形の寸法精度には現実的な限界があり、それを超えた公差を要求すると、金型費・成形費・検査費すべてが跳ね上がります。

射出成形の一般的な寸法精度

精度レベル公差の目安(50mm以下の寸法)特徴
一般精度±0.2〜±0.5mm標準的な金型で達成可能
精密精度±0.05〜±0.1mm高精度金型・温度管理が必要
超精密±0.02mm以下特殊金型・特別な成形管理が必要。コスト大

寸法が大きくなるほど公差も緩める 50mmを超える寸法では成形収縮の影響が大きくなり、同じ精度を維持することが困難になります。一般的に寸法100mmで±0.3〜0.5mmが現実的な範囲です。

成形収縮率を考慮した設計

樹脂は成形後に冷却・固化する過程で収縮します。金型の寸法は、製品寸法に収縮率を加算して製作されます。

主要素材の成形収縮率

素材収縮率(参考値)
ABS0.4〜0.7%
PC0.5〜0.7%
PP1.0〜2.5%
POM2.0〜2.5%
PA6(ナイロン)0.6〜1.4%
PA661.0〜2.0%
PE(低密度)2.0〜5.0%
PBT1.5〜2.0%

収縮率は素材だけでなく、充填方向・充填圧・冷却温度によっても変化します。公差の厳しい寸法については、成形メーカーと収縮率の実績値を共有しながら進めることが重要です。

「機能上クリティカルな寸法だけ」精密公差を入れる

全面に厳しい公差を入れることは、金型費・成形費・検査費のすべてを増大させます。合理的なアプローチは次の通りです。

公差設定の考え方:

1.機能上クリティカルな寸法を洗い出す(他部品との嵌合・シール面・位置決め面など)
2.クリティカルな寸法にのみ精密公差を設定する
3.それ以外は一般公差(±0.2〜±0.3mm程度)を適用する
4.一般公差は図面の標題欄に一括記載し、個別公差指定を最小化する

精密公差を要求した場合のコスト影響:

1.一般精度の成形品に比べて、金型費が1.2〜1.5倍になるケースがあります
2.全数検査が必要になると、検査費が成形コストの20〜30%を占めることもあります

嵌合部の公差設計

他部品との嵌合(はめあい)部は、プラスチック部品の吸湿・熱膨張も考慮します。

■ 隙間嵌め(ルーズフィット): クリアランス 0.1〜0.3mm
■ 中間嵌め(スライドフィット): クリアランス 0.05〜0.1mm
■ 圧入嵌め(プレスフィット): 干渉量 0.01〜0.03mm(素材の弾性に依存)

金属部品と樹脂部品の嵌合では、熱膨張係数の差(樹脂は金属の5〜10倍大きい)を考慮した設計が必要です。

ルール8チェックポイント

・精密公差が必要な寸法を 機能から洗い出した
・一般寸法に 一般公差 を適用して個別指定を減らしたか
・公差が成形収縮率に対して 現実的な範囲
・嵌合部の公差で 熱膨張・吸湿 を考慮したか
・精密公差が必要な箇所を成形メーカーに 事前共有 したか

設計チェックリスト — 設計レビュー前に確認する25項目

ルール1: 肉厚の均一化

  • 最薄部と最厚部の肉厚比が1.5倍以内か
  • 基本肉厚が素材の推奨範囲内か
  • ボス根元・リブ交差部にコアアウトや逃げ溝があるか
  • 肉厚変化箇所になだらかなテーパー移行があるか

ルール2: 抜き勾配

  • すべての壁面に最低1°以上の抜き勾配があるか
  • シボ加工面にシボ深さに応じた追加勾配があるか
  • コア側の勾配がキャビ側より大きく設定されているか

ルール3: リブ・ボス

  • リブ厚が基本肉厚の0.6倍以下か
  • リブ高さが基本肉厚の3倍以下か
  • ボス根元肉厚が基本肉厚の0.6倍以下か
  • 格子リブの交差部にタブカットがあるか

ルール4: R処理

  • 内R(フィレット)が0.5t以上か
  • 外Rが内R+tに設定されているか
  • どのコーナーも最小0.3mmを下回っていないか

ルール5: アンダーカット

  • 型開き方向に全ての形状が抜けるか確認したか
  • 横穴を貫通穴化で回避できないか検討したか
  • 残ったアンダーカットについて成形メーカーとコスト確認をしたか

ルール6: ゲート

  • 外観面・荷重集中部にウェルドラインが来ないか検討したか
  • ゲート位置の候補を成形メーカーと協議したか

ルール7: 穴・スナップフィット

  • 穴端からエッジまでの距離が穴径以上か
  • 有底穴のコアピン高さが穴径の3倍以下か
  • スナップフィットのたわみ量が素材の許容範囲内か

ルール8: 公差

  • 精密公差が必要な寸法を機能から洗い出したか
  • 一般寸法に一般公差を適用して個別指定を減らしたか
  • 公差が成形収縮率に対して現実的な範囲か

まとめ — 設計者と成形メーカーの早期連携が品質とコストを決める

8つのルールを振り返ると、共通するメッセージが浮かび上がります。「設計段階で防げる問題は、設計段階で防ぐ」——それだけです。

金型を起こした後の修正は、設計変更の何倍ものコストと時間がかかります。特に量産品においては、金型修正の影響は試作だけにとどまらず、スケジュール全体に波及します。

もう一つ重要なことは、これらのルールに「絶対の正解」はないという点です。素材・形状・要求品質・ロット数によって最適解は変わります。だからこそ、設計の初期段階から成形メーカーと連携することが最も効果的なリスクヘッジになります。

DFM(Design for Manufacturability)レビューとは、金型製作前に「この設計が成形できるか、どこにリスクがあるか」を成形メーカーが確認するプロセスです。多くの問題はここで洗い出せます。

本記事の8つのルールは、そのDFMレビューを自社内で行うための基礎知識として使っていただけます。そして実際に成形メーカーに相談するときは、これらのルールを理解した上で質問することで、より具体的で有益なフィードバックを得ることができます。