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射出成型・射出成形

射出成形品の塗装前設計で注意すべき10のポイント|量産前に設計者が確認すべきチェックリスト付き

「試作品を塗装したら、ひけが目立って全部やり直しになった」 「量産後に塗装の剥がれが発覚し、全数交換と金型修正で数百万円のコストが発生した」 「成形メーカーと塗装メーカーの間でたらい回しになり、原因究明に3ヶ月かかった」

これらはすべて、設計段階に原因があったトラブルです。

塗装工程で発覚した不良を「塗装の問題」と捉えがちですが、実際には根本原因の多くは設計段階にあります。ひけ・残留応力・ウェルドライン・離型剤——これらはすべて、設計と成形の工程で決まります。塗装業者がどれだけ丁寧に作業しても、成形品の品質が塗装の前提を満たしていなければ、問題は必ず出ます。

逆を言えば、設計段階でこの記事の10のポイントを押さえておけば、塗装後のトラブルの大半は防げます。

本記事は、射出成形品に塗装を施す製品を設計・開発しているエンジニア向けに、設計段階で守るべき10の判断基準を、具体的な数値と実務的なアクションとともに解説します。


目次

  1. 塗装面を「意匠面」として設計段階で明示する
  2. ウェルドラインを意匠面に出さないゲート設計
  3. 塗装を前提にした素材選定と塗装難易度の確認
  4. ひけ(シンクマーク)を設計段階でゼロに近づける
  5. 残留応力がケミカルクラックを引き起こす仕組みと設計対策
  6. 抜き勾配の設定が塗装面の品質を左右する理由
  7. 塗装工程の焼付け熱に耐えられる設計にする
  8. マスキング設計でコストと品質を最適化する
  9. 離型剤の選定を塗装前提で成形メーカーと合意する
  10. 塗装仕様を設計段階で確定し図面に織り込む

ポイント1:塗装面を「意匠面」として設計段階で明示する

意匠面の定義なしに進めると何が起きるか

射出成形品の設計において、もっとも上流にある塗装関連の判断は「どの面を塗装するか」を明確にすることです。

これが定義されていないまま設計と金型製作が進むと、後から深刻な問題が発生します。パーティングライン(金型の合わせ目)が意匠面を横切る位置に設定されてしまったり、エジェクタピン(製品を金型から押し出すピン)の跡が塗装後も目立つ位置に来てしまったりします。これらは金型を作り直さない限り修正できない問題であり、発覚するのが遅ければ遅いほどコストが膨らみます。

意匠面・準意匠面・非意匠面の3分類で設計する

設計段階で面を以下の3種類に分類し、図面または3Dデータ上で明示することを推奨します。

分類定義許容できる成形痕
意匠面(A面)製品使用時に外から見える最重要外観面原則ゼロ。パーティングライン・エジェクタピン跡・ウェルドライン不可
準意匠面(B面)使用時に見えるが主要外観ではない面パーティングライン可(段差0.1mm以下)、軽微なエジェクタピン跡可
非意匠面(C面)製品内部・取付面など見えない面成形痕の制限なし

この3分類を早期に決めることで、金型設計において「パーティングラインをどこに逃がすか」「エジェクタピンをどこに配置するか」の判断が明確になります。

パーティングラインを意匠面から逃がす設計の基本

パーティングラインは塗装で完全に隠すことが難しい成形痕の代表格です。段差や線として残るため、高光沢塗装面では特に目立ちます。

設計段階でパーティングラインを意匠面から逃がすためのアプローチは2つあります。

アプローチ1:形状変更でパーティングラインを稜線に合わせる 製品の稜線(エッジ)にパーティングラインを合わせると、成形痕が稜線の陰に入り目立ちにくくなります。デザイン上許容できる場合は、意匠面のフラットな面から稜線への変更を検討します。

アプローチ2:パーティングラインを裏面・側面底部に逃がす 正面から見えない側面の底部や裏面にパーティングラインが来るよう、分割面を決めます。これは金型設計時の判断ですが、設計者が意匠面を事前に明示していないと、金型設計者が独自に判断してしまうリスクがあります。

エジェクタピン跡の位置管理

エジェクタピン跡は一般的に直径2〜8mm程度の円形の跡として残ります。塗装で薄い跡は目立たなくできますが、凹凸が大きい(0.05mm以上)とどんな塗装でも消えません。

意匠面(A面)へのエジェクタピン配置は原則禁止とし、非意匠面(C面)に集中させます。どうしても意匠面側に必要な場合は、ピン径を最小化(最小φ2mm程度)し、ピン跡が出ても目立たない凸形状の意匠(シボ加工や凸リブ)で隠す設計を検討します。


ポイント2:ウェルドラインを意匠面に出さないゲート設計

塗装で隠せる成形痕と隠せない成形痕

設計者が最も知っておくべき重要な事実があります。ウェルドラインは塗装で隠せません。

これを知らずに「表面の線は塗装で消える」と期待していると、量産後に大きなトラブルになります。塗装で隠せる成形痕と隠せない成形痕を正確に理解しておくことが、設計判断の前提になります。

塗装で隠せる成形痕

  • ゲートマーク(小さく浅いもの)
  • 軽微なひけ(深さ0.03mm未満、艶消し塗装の場合)
  • 軽微な表面粗さ・バリ取り跡
  • 軽微なエジェクタピン跡(深さ0.03mm未満)

塗装で隠せない・隠しにくい成形痕

  • ウェルドライン(線状の跡、塗膜では埋まらない)
  • 深いひけ(深さ0.05mm以上、特に高光沢塗装)
  • パーティングラインの段差(0.1mm以上)
  • 深いエジェクタピン跡(0.05mm以上)
  • フローマーク(流れ跡)

この分類を設計チームで共有することが、塗装前設計の出発点です。

ウェルドラインが発生する場所の法則

ウェルドライン(ウェルドマーク)は、金型内で異なる方向から流れてきた樹脂が合流する箇所に生じる線状の痕跡です。見た目の問題だけでなく、合流部は強度が低下することも知られています。

ウェルドラインが発生する場所には明確な法則があります。

  • 単一ゲートの場合: 樹脂の流れの先端(ゲートの反対側の末端部)に発生しやすい
  • 穴・開口部がある場合: 穴の周囲を樹脂が回り込んで合流する穴の下流側に必ず発生する
  • 複数ゲートの場合: ゲートとゲートの中間地点(流れが合流する箇所)に発生する

この法則を理解すれば、設計段階で「ウェルドラインがどこに出るか」を予測できます。

設計段階でウェルドラインを意匠面から逃がす方法

方法1:ゲート位置の協議 ゲート位置はウェルドライン発生位置を直接決定します。設計段階で成形メーカーとゲート位置を協議し、ウェルドラインが意匠面(A面)に来ないよう調整します。ゲートを一箇所増やしてウェルドの位置を移動させることも有効です。

方法2:穴位置の見直し 意匠面に穴があると、その下流にウェルドラインが必ず発生します。機能上可能であれば、穴の位置を非意匠面側に移動させます。穴位置の変更が難しい場合は、流動解析(CAE)でウェルドの発生位置を把握し、外観基準を調整します。

方法3:流動解析(CAE)によるウェルドライン位置の確認 金型製作前に流動解析を実施することで、ウェルドラインの発生位置を可視化できます。問題がある場合はゲート位置の変更・形状変更でウェルドを移動させます。量産品や外観品質の要求が高い製品では、流動解析は必須と考えてください。


ポイント3:塗装を前提にした素材選定と塗装難易度の確認

素材によって塗装難易度は大きく異なる

「塗装するから素材の色は何でもいい」という考えで素材を選定してしまうと、塗装段階になって密着不良が発覚するケースがあります。プラスチック素材の塗装難易度は素材ごとに大きく異なり、難しい素材では特殊な前処理が必要です。

素材別・塗装難易度と前処理一覧

素材塗装難易度主な前処理設計上の注意点
ABS容易脱脂洗浄のみでOKなケースも溶剤系塗料でケミカルクラックのリスクあり(ポイント5参照)
PS(ポリスチレン)容易〜中脱脂洗浄芳香族溶剤に注意
PC(ポリカーボネート)脱脂洗浄、場合によりプライマー溶剤選定に注意。高温焼付けは可
ABS/PC アロイ容易〜中脱脂洗浄ABS同様の注意点
PP(ポリプロピレン)フレーム処理 or コロナ処理 + 専用プライマー必須非極性素材のため塗料が密着しにくい
PE(ポリエチレン)非常に難フレーム処理 + 専用プライマー難塗装素材の代表。成形後の塗装は避けることを推奨
PA(ナイロン)脱脂洗浄 + 吸湿管理吸湿すると密着性が低下。成形後すぐに塗装が理想
POM(ポリアセタール)非常に難プライマーでも密着性が低い塗装前提の設計には不向き。素材変更を検討
PBT脱脂洗浄 + プライマー結晶性樹脂のため離型剤残留に注意

PPとPOMへの塗装で特に注意すべきこと

PP(ポリプロピレン)の場合 PPは非極性素材のため、表面エネルギーが非常に低く、塗料との化学的な結合が起きにくい性質があります。水をはじく表面と同様に、塗料が密着せずに剥がれてしまいます。

PP素材への塗装を前提とする場合、以下の前処理が必須です。

  • フレーム処理(バーナーの炎を表面に当て、表面エネルギーを一時的に高める)
  • コロナ処理・プラズマ処理(放電で表面を活性化する)
  • PP専用プライマーの塗布

ただし、これらの前処理はコストと工程が増えます。設計段階でPPを選定する場合は、塗装コストと前処理リスクを十分に検討してください。

POM(ポリアセタール)の場合 POMは本質的に難塗装素材であり、プライマーを使用しても十分な密着性が得られないケースが多くあります。POMに塗装を施す設計は、可能な限り避けることを推奨します。

外観品質が求められる用途でPOMが必要な場合は、POM本体の塗装をやめ、外観部品を別素材(ABSなど)で設計して組み合わせる方法を検討してください。

塗装を前提とした素材変更の判断フロー

すでにPPで設計が進んでいるが、後工程で塗装が必要になったケースは珍しくありません。この場合、「素材をABSに変更する」か「PP専用の前処理で対応する」かを判断する必要があります。

判断基準は以下の通りです。

  • 量産ロットが多い(年間10,000個以上): 前処理工程を組み込むコストが許容できれば前処理対応。ただし工程管理が増える
  • 外観品質要求が高い(自動車内装・家電外装など): 素材変更を優先。PPへの塗装は長期密着性にリスクがある
  • 形状・強度・コストでPPが必須: 前処理対応に加え、成形メーカーと密着性試験を必ず実施
  • 試作段階でまだ素材変更が可能: ABSへの変更を積極検討。塗装コスト・リスクを含めたトータルコストで比較

ポイント4:ひけ(シンクマーク)を設計段階でゼロに近づける

なぜひけは塗装後に目立つのか

成形品を目視した時点ではわからなかったひけが、塗装後に突然目立って見える——このトラブルは設計者・品質担当者が経験する頻出問題です。

これには光の反射の原理が関係しています。

成形品の素地(成形色)は、表面の微細な凹凸が光を散乱させます。この散乱効果がひけを「見えにくく」します。一方、塗装面、特に高光沢塗装(ピアノブラック・クリアコートなど)は表面が鏡面に近い状態になります。鏡面は光を均一に正反射するため、数十μm(0.03〜0.05mm)程度の微細なひけでも、光の反射の歪みとして鮮明に見えてしまいます。

つまり、「塗装前は見えなかったひけ」が「塗装後に初めて見える」状態になるのです。

塗装種別によるひけの許容基準の違い

ひけの許容基準は、塗装の仕上げによって大きく異なります。

塗装仕上げひけ深さの目安許容値
艶消し(マット)塗装0.1mm程度まで許容されることが多い
半艶塗装0.05mm程度
光沢(グロス)塗装0.03mm以下(それ以上は不良リスク大)
鏡面・ピアノブラック塗装0.02mm以下(0.03mmで目立つケースあり)

これは目安であり、製品の用途・評価距離・照明条件によっても変わります。塗装仕様が決まった段階で、成形メーカーに許容基準を明示することが重要です。

ひけが出やすい設計パターンと対策

NG設計パターン1:ボス根元の肉厚集中 ボスが壁面から直接立ち上がっている場合、根元部の断面積が基本肉厚の2倍以上になることがあります。この肉厚集中部が冷却遅れを起こし、ひけの原因になります。

対策:ボス根元に逃げ溝を設け、根元肉厚を基本肉厚の0.6倍以下に抑えます。または壁面からボスを離し、リブで支持する設計に変更します。

NG設計パターン2:リブと壁面の交差部 リブ厚が基本肉厚の0.6倍を超えると、リブ根元の肉厚集中が意匠面側にひけとして現れます。

対策:リブ厚を基本肉厚の0.5〜0.6倍以下に設定します。格子状リブの交差部はタブカット(コーナー逃げ)を入れて肉集中を軽減します。

NG設計パターン3:急激な肉厚変化部 薄肉から厚肉への急激な移行部では、厚肉側の冷却が遅れてひけが発生します。

対策:肉厚変化部は3倍以上の距離をかけてなだらかに移行させます。「最薄部と最厚部の比が1.5倍以内」を基本ルールとします。


ポイント5:残留応力がケミカルクラックを引き起こす仕組みと設計対策

「成形品がなぜ塗装後に割れるのか」のメカニズム

塗装後に突然クラックが入るという現象——ケミカルクラック(化学的割れ)は、射出成形品の塗装においてもっとも深刻なトラブルの一つです。

ケミカルクラックは「残留応力」と「塗料の溶剤」の組み合わせで発生します。

メカニズムの流れ:

  1. 射出成形工程において、急冷・過充填・アンバランスな肉厚などにより成形品内部に残留応力が蓄積される
  2. 塗装工程で溶剤系塗料を塗布すると、溶剤が樹脂表面に微量浸透し、樹脂分子間の結合を一時的に弱める
  3. 残留応力が集中している部位では、溶剤による結合の弱体化をきっかけに応力が解放され、クラックが走る

この現象は「応力腐食割れ」と類似したメカニズムで、残留応力が小さければ同じ溶剤でも割れません。つまり「塗料の問題」ではなく「成形品の残留応力の問題」です。

素材別・ケミカルクラックが起きやすい溶剤の組み合わせ

素材危険な溶剤の種類リスクレベル
ABSケトン系(MEK・アセトン)、エステル系、塩素系溶剤
PS芳香族系(トルエン・キシレン)、ケトン系
PC塩素系、ケトン系、芳香族系
PMMAケトン系、エステル系中〜高
PP基本的にケミカルクラックは起きにくい
POM強酸・強アルカリ系(通常の塗料溶剤はリスク低)

ABSはケミカルクラックが最も発生しやすい素材です。塗料を選定する際には、ABSに使用可能な低溶解力(低浸蝕性)の溶剤系塗料を選ぶか、水性塗料に切り替えることを検討します。

残留応力を増大させる設計NGパターン

設計段階で残留応力を低減することが、ケミカルクラック防止の根本対策です。

NGパターン1:鋭角コーナー(R処理なし) コーナーにR処理がないと、成形時の樹脂流動と冷却過程で応力集中が発生します。特にゲートから遠い末端部の鋭角コーナーは高リスクです。

対策:全てのコーナーに内R(フィレット)を設けます。推奨値は肉厚の0.5〜1.0倍以上です。

NGパターン2:急激な肉厚変化 薄肉から厚肉への急変部では、冷却速度の差が大きく、高い残留応力が発生します。

対策:肉厚変化部はなだらかなテーパー移行(最低3倍の距離)を設けます。

NGパターン3:インサート周辺の薄肉 金属インサートと樹脂の熱膨張係数の差(金属の5〜10倍大きい)により、インサート周囲の樹脂に高い残留応力が発生します。

対策:インサート周辺の肉厚を確保し(インサート外径の0.5倍以上の樹脂厚)、インサートのシャープエッジを避けます。

NGパターン4:無理なゲート位置と過充填 ゲートから遠い末端部への充填を確保するために射出圧力・保圧を高くすると、ゲート近傍に高い残留応力が蓄積されます。

対策:適切なゲート位置・ゲート数で過充填が不要な設計を成形メーカーと協議します。


ポイント6:抜き勾配の設定が塗装面の品質を左右する理由

「抜き勾配は成形の話」ではなく「塗装品質の話」

多くの設計者は抜き勾配を「金型から製品を取り出すための成形上の要件」と認識しています。確かにその通りなのですが、抜き勾配の不足は塗装品質に直接影響します。この認識がない設計者は、抜き勾配を最小限にしようとしがちで、それが塗装後のトラブルにつながります。

抜き勾配が不足した意匠面では、金型から取り出す際に型と樹脂の摩擦が生じ、「引きずり跡(ドラッグマーク)」が表面に付きます。成形色(素地)の状態では目立たないこの傷が、高光沢塗装後の鏡面状態では鮮明に現れます。

引きずり跡が塗装後に目立つ理由 塗膜は均一な厚さで形状に追従して塗られます。下地の引きずり跡が0.01〜0.02mmの深さであっても、塗膜がその上に均一に乗るだけで、凹凸自体は消えません。光沢面でその凹凸が光を歪めて反射するため、傷として見えます。

塗装仕様別の推奨抜き勾配

面の種類・塗装仕様最小推奨勾配
艶消し塗装面(一般)
光沢塗装面2〜3°
高光沢・ピアノブラック塗装面3〜5°
シボ加工後に塗装する面シボ深さ0.025mmごとに+1°(通常勾配に加算)
深シボ(深さ0.1mm)+光沢塗装基本3°+4°追加=最低7°

高光沢塗装を前提とした設計では、通常の抜き勾配より2〜3°多く確保する意識が重要です。

シボ加工と塗装を組み合わせる場合の特別な注意

シボ(梨地)加工は金型面をエッチングで粗くする加工で、その深さに比例して必要な抜き勾配が増加します。さらにその上に塗装を施す場合は、シボ用の追加勾配+塗装品質確保のための追加勾配の両方が必要です。

シボ加工を予定している面は、意匠設計部門とシボの種類・深さを決める前に、成形メーカーに必要勾配を確認することを強く推奨します。後工程でシボを変更すると、勾配の変更が必要になり設計変更が発生します。


ポイント7:塗装工程の焼付け熱に耐えられる設計にする

焼付け塗装の加熱工程で変形する問題

塗装工程には多くの場合、塗膜を硬化させるための加熱(焼付け)工程が含まれます。この焼付け温度が、射出成形品の耐熱温度を超えると変形・反りが発生します。

さらに問題なのは、「成形品の耐熱温度を確認せずに塗装仕様を決めてしまう」ことが設計現場で珍しくない点です。設計者が素材の耐熱性を確認し、選択する塗装の焼付け温度と照合しなければ、後から「この塗装は使えない」という事態になります。

塗装種別の焼付け温度と主要樹脂の耐熱温度対比

塗装の種類一般的な焼付け温度
常温乾燥型ウレタン常温〜60℃
低温硬化型ウレタン60〜80℃
熱硬化型ウレタン(自動車バンパー等)80〜90℃
アクリルメラミン(焼付け)120〜150℃
粉体塗装160〜200℃
樹脂素材荷重たわみ温度(目安)実用耐熱温度(塗装向け)
PP100〜115℃80〜90℃以下推奨
ABS85〜105℃80〜90℃以下推奨
PC120〜135℃110〜120℃以下推奨
PA6(ナイロン)60〜65℃(乾燥時180℃以上)乾燥状態で120℃程度可
POM100〜110℃90〜100℃以下推奨
PBT150〜170℃130〜150℃程度可

この対比から、PP・ABSはアクリルメラミン焼付け塗装(120〜150℃)が使えないことがわかります。PP・ABS製品に高品質な塗装仕上げが必要な場合は、低温硬化型ウレタン塗料を選択するか、素材をPCまたはPC/ABSアロイに変更することを検討します。

熱変形しやすい形状と設計上の対策

焼付け工程で特に変形しやすい形状があります。

  • 薄板・フラットな面積の大きい部品: 加熱で自重変形が起きやすい
  • 細長い部品(アスペクト比が大きい部品): 線膨張で湾曲しやすい
  • 肉厚差の大きい部品: 熱膨張量の差が変形を引き起こす
  • 非対称な形状: 加熱・冷却の不均一で反りが起きやすい

設計上の対策としては、リブを追加して剛性を高める、肉厚を均一化する、加熱時に治具で形状を保持することを塗装仕様に含める、などがあります。


ポイント8:マスキング設計でコストと品質を最適化する

マスキングコストが塗装コストの大きな割合を占める

塗装コストの内訳で見落とされがちなのが「マスキング(非塗装面の保護)」の工数です。複雑な形状の製品や、塗り分けが多い製品では、マスキングに塗装本体と同等以上の工数がかかることがあります。

マスキングコストは設計の形状で大きく変わります。つまり、設計段階でマスキングのしやすさを考慮した形状設計が、塗装コストの削減に直結します。

マスキングコストを下げる5つの設計アイデア

アイデア1:塗装/非塗装の境界を段差・溝で明確にする 塗装と非塗装の境界が平面上にあると、マスキングテープのエッジが曲がり塗装境界が滲みやすくなります。境界部に0.3〜0.5mmの段差溝(パーティングチャンネル)を設けることで、マスキングテープが溝に沿って正確に貼れ、エッジが明確になります。結果として塗装品質も上がります。

アイデア2:マスキングテープが貼りやすい平面・単純形状の区画を設ける 複雑な曲面の連続した箇所にマスキングが必要な場合、マスキングの精度が落ちてコストも増えます。非塗装面を平面・単純な形状に設計することで、マスキングが容易になります。

アイデア3:塗り分けが必要な場合は別部品に分割して塗装後に組み付ける 一つの部品内で複数色の塗り分けが必要な場合、マスキングコストが急増します。分割できる箇所は別部品として設計し、それぞれを単色塗装してから組み付ける方がコスト的に有利になるケースが多くあります。

アイデア4:非塗装面は成形色で完結させる 製品の裏面や非意匠面の色を塗装で出すのをやめ、成形色(材料の色)で完結させる設計にします。マスキングが不要になり、コストが大幅に下がります。

アイデア5:治具保持のための形状を確保する 塗装工程では製品を治具(ハンガー・ジグ)で保持して塗装します。治具が当たる箇所は塗装できないため、その箇所の設計(非意匠面への配慮)が必要です。また、治具が保持しやすい形状(穴・フラット面・突起)を非意匠面に設けると、安定した塗装品質につながります。


ポイント9:離型剤の選定を塗装前提で成形メーカーと合意する

離型剤が塗装密着不良を引き起こすメカニズム

塗装密着不良の原因として見落とされがちな要因が「離型剤の残留」です。

離型剤とは、射出成形において製品を金型から取り出しやすくするために使用する薬剤です。内部離型剤(樹脂ペレットに混練されているもの)と外部離型剤(金型面にスプレーするもの)があります。

成形後の製品表面には、特に外部離型剤を使用した場合、離型剤成分が薄く残留します。この残留が塗料の密着を阻害します。

シリコン系離型剤の問題 外部離型剤の中でも、シリコン系離型剤(ジメチルシリコーン系)は塗装密着を著しく低下させます。シリコーン成分は表面エネルギーを極端に下げるため、通常の脱脂洗浄では完全に除去できません。塗装工程でいくら丁寧に洗浄しても、微量のシリコーンが残ると「ハジキ(クレーター状の凹み)」「塗膜剥がれ」が発生します。

製造現場でよく起きる問題 成形メーカーが「量産性向上のため」に外部離型剤を使用しているにもかかわらず、その事実が塗装メーカーや設計者に伝わっていないケースが多くあります。塗装不良が発生すると「塗装側の洗浄不足」「成形側の離型剤問題」で責任のなすり合いになり、原因究明が長期化します。

これは成形と塗装を別業者に発注している場合に特に起きやすい問題です。

成形メーカーへの発注時に確認すべき3項目

塗装を前提とした射出成形品を発注する際、以下の3点を発注仕様書に明記し、成形メーカーと合意を取っておくことを強く推奨します。

  1. 外部離型剤の使用禁止(または使用の場合は塗装適合品に限定) 発注仕様書に「外部離型剤の使用を禁止する」または「使用する場合は塗装前処理で除去可能な製品に限定し、品番を報告すること」を明記します。
  1. 内部離型剤の種類の確認 樹脂ペレットに内部離型剤が含まれている場合、その種類と含有量を確認します。シリコン系内部離型剤が含まれる場合は、塗装適性を塗装メーカーと事前確認します。
  1. 成形後の脱脂洗浄の実施有無の確認 成形メーカーが塗装前の脱脂洗浄を行うかどうかを確認します。脱脂洗浄なしで出荷される場合、塗装メーカーでの洗浄が必要です。一貫対応の場合は、脱脂工程を含めた品質フローを事前に決めておきます。

成形から塗装まで一貫対応を依頼するメリット

成形と塗装を同一業者に依頼することで、離型剤の引き継ぎ・脱脂工程の一体管理が実現します。「成形時にどの離型剤を使ったか」「塗装前に正しく脱脂されたか」を一つの工程フローで管理できるため、品質トラブルの原因究明が格段に容易になります。

ポイント1〜9で挙げたトラブルの多くは、「成形側と塗装側の情報連携不足」が根本原因です。一貫対応では設計段階から塗装仕様まで、一つのメーカーで情報を管理できるため、後工程での手戻りを大幅に減らすことができます。


ポイント10:塗装仕様を設計段階で確定し図面に織り込む

「塗装仕様は塗装工程で決める」という誤解

設計者の中には「塗装の詳細(色・艶・塗膜厚み)は製造段階で塗装業者と決めればいい」という認識の方がいます。しかしこの考えは、設計変更リスクを後工程に先送りするものです。

塗装仕様が変わると、ポイント1〜9のすべての設計判断が影響を受けます。例えば「艶消しから高光沢に変更」するとひけの許容基準が変わり、設計変更が必要になるかもしれません。「溶剤系から水性に変更」すると素材のプライマー適性が変わります。「低温硬化から高温焼付けに変更」すると素材の耐熱性が不足するかもしれません。

設計段階で塗装仕様を固めることが、後工程での設計変更コストをゼロにする最善策です。

設計段階で確定すべき塗装仕様の8項目

項目確認内容関連するポイント
1. 塗装面の定義意匠面(A/B/C面)の明示ポイント1
2. 塗料の種類溶剤系・水性・粉体・UV硬化型ポイント5(溶剤選定)
3. 仕上げ艶あり・艶消し・光沢度(60°グロス値)ポイント4(ひけ許容値)
4. 色色番・Munsell値・ΔE許容値
5. 焼付け温度・時間℃・分ポイント7(耐熱確認)
6. 密着性規格クロスカット試験の基準(JIS K5600等)
7. 耐候性要求促進耐候試験の種類と時間(QUV・サンシャイン)ポイント3(素材選定)
8. 塗膜厚みμm(最低・最大・目標値)ポイント8(マスキング)

塗装仕様の変更がもたらす設計変更コストの例

後工程での塗装仕様変更がいかに設計変更コストに直結するかを示す具体例です。

ケース1:艶消し→高光沢塗装への変更 ひけの許容基準が厳しくなり、既存の設計では許容できないひけが意匠面に存在することが判明。ボス形状・リブ厚の設計変更→金型修正→塗装再試作という工程が必要になる。

ケース2:溶剤系ウレタン→水性塗料への変更 PPへの密着に使用していたプライマーが水性塗料に対応していないことが判明。プライマーの再選定→密着性試験→量産条件の再確立が必要になる。

ケース3:80℃硬化型→120℃焼付け塗装への変更 ABS製品に120℃焼付け塗装を適用しようとしたところ、ABSの耐熱温度(約90℃)を超えており変形が発生。素材をPCに変更→肉厚・強度の再検討→金型修正という工程が必要になる。

これらのトラブルはすべて、設計段階で塗装仕様を確定していれば防げます。


設計レビューチェックリスト:塗装前設計 全30項目

設計初期(意匠・素材・仕様)

  • オフ意匠面(A面)・準意匠面(B面)・非意匠面(C面)を定義し図面に明示した
  • オフ意匠面にパーティングラインが来ないよう、パーティングラインの位置を成形メーカーと協議した
  • オフ意匠面にエジェクタピン跡が来ないよう、ピン位置を成形メーカーと確認した
  • オフ塗装を前提とした素材選定を行い、選定素材の塗装難易度を確認した
  • オフPPまたはPOMを使用する場合、塗装前処理のコスト・リスクを評価し必要なら素材変更を検討した
  • オフ塗装仕様(塗料種類・仕上げ・焼付け温度・耐候性要求)を設計段階で確定した
  • オフ選定素材の耐熱温度が塗装の焼付け温度を上回ることを確認した

形状設計段階(形状・ゲート・マスキング)

  • オフウェルドラインの発生位置を予測し、意匠面に来ないようゲート位置を成形メーカーと協議した
  • オフ意匠面に穴がある場合、穴の下流に来るウェルドラインの外観への影響を評価した
  • オフ流動解析(CAE)でウェルドライン・ひけ位置を確認した(外観品質要求が高い場合)
  • オフ全てのコーナーに内R(最小0.5t)が付いている(残留応力低減)
  • オフ急激な肉厚変化部にテーパー移行(最低3倍の距離)が設けられている
  • オフ最薄部と最厚部の肉厚比が1.5倍以内に収まっている
  • オフボス根元の肉厚が基本肉厚の0.6倍以下に抑えられている
  • オフリブ厚が基本肉厚の0.6倍以下に抑えられている
  • オフ意匠面の抜き勾配が塗装仕様に応じた角度(光沢塗装面なら2〜3°以上)を確保している
  • オフシボ加工を予定している面の抜き勾配にシボ深さ分の追加勾配が含まれている
  • オフ塗装/非塗装の境界部に段差溝(0.3〜0.5mm)が設けられている
  • オフマスキングテープが貼りやすい平面・単純形状の区画が確保されている
  • オフ治具保持のための非意匠面の形状が確保されている

成形メーカーとの合意事項

  • オフ外部離型剤の使用禁止または塗装適合品使用を発注仕様書に明記した
  • オフ内部離型剤の種類・含有量を確認した(シリコン系の場合は塗装適性を確認)
  • オフ成形後の脱脂洗浄の工程有無と担当を合意した
  • オフ焼付け温度で変形が起きないか、成形メーカーと確認した
  • オフひけの許容基準(深さμm)を塗装仕様に基づいて成形メーカーに伝えた

塗装仕様の確定(図面・仕様書への記載)

  • オフ塗料の種類(溶剤系/水性/粉体)を図面または仕様書に記載した
  • オフ仕上げ(光沢度・艶あり/消し)の基準値を記載した
  • オフ塗膜厚みの目標値・最小値・最大値を記載した
  • オフ密着性試験の規格(クロスカット試験等)と合否基準を記載した
  • オフ耐候性要求(促進耐候試験の種類・時間)を記載した
  • オフΔE(色差)の許容値を記載した

まとめ:設計フェーズ別に押さえるべきこと

設計初期に決めること(ポイント1・3・10)

意匠面の定義・素材選定・塗装仕様の確定は、他のすべての設計判断の前提になります。これらが決まっていないまま形状設計に進むと、後から変更が必要になるリスクが高まります。設計初期に成形メーカーを交えた会議で確認することを推奨します。

形状設計中に確認すること(ポイント2・4・5・6・8)

3DCADで形状を固める前に、ゲート位置・ひけリスク・残留応力・抜き勾配・マスキング設計を確認します。特に「意匠面にウェルドラインが来ないか」「ひけが出やすい肉厚集中部はないか」「コーナーのR処理が適切か」は必須のチェック項目です。

成形メーカーとの打ち合わせで確定すること(ポイント7・9)

焼付け温度の照合と離型剤の合意は、成形メーカーとの協議が必要です。「設計者が決めること」と「成形メーカーと協議して決めること」を明確に分けることで、設計者がやるべきアクションが具体化されます。


10のポイントのうち、半数以上は「成形メーカーと設計段階から連携することで防げる問題」です。塗装後のトラブルは「成形と塗装をつなぐ情報」が不足しているときに起きます。成形から塗装まで一貫した視点を持つメーカーに早期から相談することが、もっとも確実なリスク回避策です。

設計段階でのDFM(Design for Manufacturability)レビューにご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。3DCADデータをもとに、塗装前設計の観点から無料でレビューいたします。